個人情報保護法改正でAI学習データ活用が変わる。施行前に押さえる三つの急所

「社内の顧客データをAI学習に使いたいが、個人情報との兼ね合いが怖くて踏み出せない」。私たちが現場で聞くことが多い声です。
その前提が動きました。個人情報保護法等の改正法は2026年7月10日に成立し、7月17日に公布されました。AI開発目的での個人データ活用のルールも見直されます。ただし施行日はまだ決まっていません。
施行されれば、RAGやFine-tuningへの社内データ活用が現実的な選択肢に近づきます。
ただし、「緩和された」という言葉だけで動き始めると、かえって違反リスクを高める逆効果になりかねません。何が変わり、何は変わっていないのか。法務・情シス・経営の三部門が同時に動くべき急所を整理します。
この記事の対象読者
- RAGやFine-tuningへの社内データ活用を検討中の情シス・IT担当者
- AI推進プロジェクトにおける個人情報リスクを整理したい法務担当者
- データ活用と法令遵守のバランスを経営層に説明しなければならないCIO・CTO
- AIガバナンス体制の整備を進めようとしている経営企画担当者
何が起きたか
閣議決定から公布までの流れ
個人情報保護法等の改正法は、2026年4月7日に閣議決定され、同日に第221回国会(特別会)へ提出されました。7月10日に成立し、7月17日に公布されています。出典:令和8年改正個人情報保護法について(個人情報保護委員会)
施行日はまだ決まっていません。個人情報保護委員会は「改正法の円滑な施行に向けたロードマップ」に沿って、関係する政令・委員会規則・ガイドライン等の整備を進めるとしています。
AI開発向けの特例
AI実務との関わりで注目されるのは、本人同意なしでの第三者提供を認める特例です。これまでAI学習用途でのデータ利用・提供を阻む壁になっていたのが、第三者提供規制でした。
セキュリティ企業のイー・ガーディアンは、この特例が「統計情報等の作成にのみ利用される場合」に限定され、「目的外利用・第三者提供の禁止を書面で合意する」などの条件が付くと解説しています。適用は「AI開発専用」と明示された条件下に限られ、汎用的な個人データ活用の自由化ではないとしています。出典:AIガバナンスと法規制の最新動向(後編)(イー・ガーディアン、2026年6月5日)
AIガバナンス全体の潮目
背景として、日本のAI規制は長くソフトロー中心で形成されてきました。KPMGの加納寛之氏は、AIガバナンスについて「方針を持っている」ことではなく「仕組みとして機能していることを証明できる」ことが企業に求められると指摘しています。出典:AI関連ルール形成の現在地と企業に求められる視点(KPMG、2026年5月27日)

ポイントと背景
何が変わったのか
今回の改正がAI実務に与える最大の変化は、社内データの活用ルートが整備されたことです。社内に眠る顧客・取引データをAI学習に使う道が、一定条件のもとで開かれます。
これまで個人情報を含むデータの扱いには、慎重な企業が多く見られました。RAGの検索対象やFine-tuningの学習セットに使うことについて、法的根拠が曖昧なまま「念のため禁止」という判断をするケースが目立ちます。
改正によって何が変わり、何が変わっていないのかを整理すると、以下のような軸で考えることができます。
| 論点 | 改正前の状況 | 改正後 |
|---|---|---|
| AI学習目的での社内データ活用 | 利用目的の特定・明示が不十分なケースが多く、活用が難しかった | AI開発目的での利用を明示する前提が整う |
| 第三者提供を伴うデータ共有 | 原則として本人同意が必要で、学習データ共有の障壁になっていた | 統計情報等の作成にのみ利用する場合など、条件付きで同意なしの提供が認められる |
| 仮名加工・匿名加工の位置づけ | 判断基準が不明確で活用しにくかった | 政令・委員会規則・ガイドラインの整備を待って判断する |
「緩和」の独り歩きに注意
一方で、「緩和された」という言葉が独り歩きするリスクもあります。緩和はあくまで「一定の要件を満たした場合」に限られ、同意取得の免除や無制限のデータ利用を意味しません。加えて、公布はされたものの施行日はこれからです。今日から新しいルールで動けるわけではない、という点は社内で共有しておいてください。
自社への含意
最初に止まるのは体制の問題
私たちが見てきた範囲では、改正対応で最初に止まるのは「誰が何を決めるか」という体制の問題です。法務は法令文書を読み、情シスはシステム要件を考え、経営はコスト感で判断します。三者が同じ共通言語を持っていないと、実務が動きません。
先に進めるべき三段階

施行を待つ間にできることがあります。次の三段階を順番に進めるのが現実的です。
- 第一段階:利用目的表記の見直し:保有個人データの利用目的にAI開発・学習が含まれているかを確認し、不足があれば追記・変更の手続きを踏む。
- 第二段階:データフローの棚卸し:社内のどのデータが第三者提供に該当するかを洗い出し、AI学習に使うデータとそうでないデータを分類する。
- 第三段階:仮名加工・匿名加工の適否判断:仮名加工情報は個人情報のまま扱いが一部緩和されるにとどまり、規制の外に出るわけではありません。どこまで加工すれば目的の利用が可能になるかを、法務と情シスで共同確認する。
この三段階は、単なるコンプライアンス対応にとどまりません。**データ資産を競争優位に転換するための基盤整備**として経営層に説明すると、予算・体制が動きやすくなります。

よくある質問
改正法はいつ施行されますか?
2026年7月17日に公布されましたが、施行日はまだ決まっていません。個人情報保護委員会は、ロードマップに沿って政令・委員会規則・ガイドライン等の整備を進めるとしています。イー・ガーディアンは、施行を成立から1〜2年後、2027年ごろと見込んでいます。
社内データをそのままRAGに入れてよいですか?
改正後も、利用目的の特定・明示が前提となります。まず保有データの利用目的にAI学習が含まれているかを確認してください。含まれていなければ、追記・変更の手続きが先です。
仮名加工すれば個人情報規制は外れますか?
仮名加工情報は個人情報保護法上の取り扱いが一部異なりますが、第三者提供が原則禁止になるなど制約も残ります。匿名加工情報との違いも含め、法務担当者と個別に確認する必要があるでしょう。
Fine-tuningと第三者提供の関係はどう整理しますか?
Fine-tuningをクラウドベンダーや外部事業者に委託する場合、データが「第三者提供」に該当するかが論点になります。委託先への提供は委託の範囲内として扱われる場合もありますが、契約・データ処理規約の確認が不可欠です。
対応の優先度が高い業種はどこですか?
顧客データや医療・金融データを大量に保有する業種では、改正の影響が相対的に大きい傾向があります。ただし業種より「保有する個人データの量と種類」で優先度を判断するのが現実的です。
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参考・出典
今回の改正は、「何ができるようになったか」より「何をすれば適法に使えるか」を確認することが先決です。
緩和の恩恵を受けるには、利用目的の整理とデータフローの棚卸しという地道な作業が土台になります。法務・情シス・経営の三部門が同じ理解を持った状態で動き始めることが、最終的に最も速い近道といえるかもしれません。
今日の第一歩として、まず自社の保有個人データの利用目的表記を1枚に書き出し、AI開発・学習が含まれているかを確認してください。
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