BinxAI LogoBinxAI
    記事一覧に戻る
    公開: 更新:

    「用途が思いつかない」を突破する:AI推進担当が自力でユースケースを発掘する3ステップ手順

    「用途が思いつかない」を突破する:AI推進担当が自力でユースケースを発掘する3ステップ手順
    井元CTO

    要約

    中小企業で生成AIが普及しない最大の壁は「活用シーンが思いつかない」という認知ギャップ。本記事ではヒアリング設計・業務棚卸しワークショップ・業種別ユースケース雛形の3ステップを手順書レベルで解説し、AI推進担当が社内で自力発掘できる状態を作る具体的な進め方を示す。

    「用途が思いつかない」が何を指しているか

    民間調査によると、中小企業が生成AIを導入しない最大の理由として「利用用途・活用シーンが思いつかない」が挙げられており、コストや技術リテラシーよりも上位の障壁として観測されている。同様に情報通信白書(令和7年版)でも、生成AI導入にあたっての懸念事項の筆頭に「効果的な活用方法がわからない」が挙がっており、この認知ギャップが構造的な導入阻害要因であることは政府統計でも確認されている。

    私たちが現場で見てきた範囲では、担当者が「AIに何ができるか」を理解していないというより、自社の業務を「作業単位」で語る習慣がないことが多い。部署名や役割名のレベルでしか業務を把握していない状態では、「この作業のここでAIが介入できる」という接点が見えてこない。これが認知ギャップの正体で、意欲やツールの問題ではない。

    このアプローチでできること

    以下の3ステップを実行すると、AI推進担当が外部コンサルタントに依存せず、社内の業務シーンを自力で発掘し、優先順位付きのユースケースリストを作れる状態になる。

    • ヒアリングで「AIの話」をしなくても候補タスクを引き出せる問い設計を持つ
    • ワークショップ参加者が自分で候補タスクを選別できるフィルタリング基準を定義する
    • 業種別の雛形を参照することで、発散フェーズの想像力の起動コストを下げる
    AI導入無料相談。顧客満足度95%、現場の業務負担60%削減、社内AI定着率60%向上今すぐ問い合わせる

    前提とセットアップ

    ワークショップ準備。実務担当者の確保、場と時間の設定、事前配布物の準備、進行役の設定

    ワークショップを始める前に以下を揃えておく。ツールより「誰を呼ぶか」と「事前に何を渡すか」が成否を左右する。

    • 参加者の確保:各部門から1〜2名の実務担当者(部門長ではなく、手を動かしている人)。部門長は事前の合意形成のみ担当。
    • 場の設定:90〜120分のオンライン/対面ワークショップ。スプレッドシートを共有編集できる環境(GoogleスプレッドシートやExcel Online)。
    • 事前配布物:業種別ユースケース雛形(後述)と、業務分解ガイドシート(インプット/処理/アウトプットの3列)。
    • ファシリテーター:AI推進担当1名。技術知識より「業務の話を引き出す傾聴」が求められる役割。

    手順

    自動化候補の見極め。定型作業の頻度、ドラフト作成の有無、参照型タスクか、品質チェック要否、量が多い作業

    ステップ1:ヒアリング設計(AI語彙を使わない問いに変換する)

    ヒアリングで「AIに向いている業務はありますか?」と聞いても、ほぼ何も出てこない。聞き方を業務語彙に変換することで、後工程で使えるインプットが得られる。

    以下の問いセットをそのまま使える。各問いの後ろの括弧はAI推進担当が内部で持つ「何を狙っているか」のメモで、ヒアリング相手には伝えない。

    • 「先週1週間で、同じような作業を何度繰り返しましたか?」(繰り返し発生する定型タスクを探す)
    • 「社内外の人に何かを説明するとき、毎回ゼロから文章を書いていますか?」(ドラフト生成・テンプレ化の候補)
    • 「この作業の正解は、過去の事例や規程を見れば判断できますか?」(参照型タスクかどうかの確認)
    • 「この作業の結果を誰かにチェックしてもらっていますか?その理由は何ですか?」(品質基準が明示可能かどうかの確認)
    • 「時間がかかっているけれど、スキルが必要というより量が多いだけだと感じる作業はありますか?」(ボリューム問題の抽出)

    ヒアリングで「AI」「自動化」という言葉を出さないことがコツで、相手が防衛的にならず、現状の業務フローを率直に語りやすくなる。

    得られた回答はそのままメモし、後工程の業務棚卸しシートに転記する。この段階での分類や評価は不要。

    ステップ2:業務棚卸しワークショップ(フィルタリング基準でAI候補タスクを抽出する)

    ワークショップの目的は「AIで何ができるか」を教えることではなく、参加者が自分の業務の中からAI候補タスクを自力で選別できるようにすること。そのために、判断基準をシートとして先に渡す。

    業務棚卸しシートの列構成(スプレッドシートで配布):

    列名記入内容の例
    作業名週次レポートの作成
    インプット各担当者のKPI数値、前週のメモ
    処理(何をしているか)数値を集めて文章に変換、グラフを貼り付け
    アウトプット経営陣向けPDFレポート
    繰り返し頻度毎週
    判断の均一性(○/△/×)○(フォーマットと判断基準が固定)
    参照できる正解事例(○/×)○(過去3ヶ月分のレポートがある)

    「判断の均一性」と「参照できる正解事例」の両方が○の作業を、AI候補タスクの第一候補として扱う。×が多い作業は創造性や人間関係が絡んでいることが多く、現時点では後回しにする。

    ワークショップの前半30分で各自がシートを埋め、後半で列挙した作業を見ながら判断基準を当てはめていく形式が、現場で機能しやすいことが多い。

    フィルタリングを終えたら、候補タスクを「影響範囲(何人が恩恵を受けるか)」と「実装の容易さ(既存ツールで試せるか)」の2軸でマッピングする。右上(影響大・実装容易)から着手順を決める。

    ステップ3:業種別ユースケース雛形を使って想像力の起動コストを下げる

    ユースケース整理の実践的な知見として、文書作成・要約・データ分析・顧客対応といった業務領域を先に分類してからAI適用を検討するアプローチが有効とされている。ワークショップの前にこの雛形を渡しておくと、参加者が「自分の業務に近い例」を見てから棚卸しシートを埋めるため、発散の質が上がる。

    以下は業種別の雛形例。そのまま配布資料として使える。

    業種ユースケース雛形例AIが担う処理
    製造業仕様書・技術文書の要約と版間差分の検出テキスト要約・差分抽出
    製造業設備トラブルの問い合わせ対応初稿生成参照ドキュメントを基にした回答文生成
    小売業クレーム・問い合わせ文の定型分類とタグ付けテキスト分類
    小売業商品説明文の複数バリエーション生成ドラフト生成
    士業(税理士・社労士等)顧客からの質問に対する回答文の初稿生成参照法令を基にした文案生成
    士業(税理士・社労士等)規程・契約書の変更点チェックリスト作成差分検出・整理
    建設・不動産現場日報・施工報告書の構造化と転記非構造化テキストの整形
    医療・介護記録文書のテンプレート入力支援定型文補完・整形

    雛形はあくまで想像力の起点として使う。「うちは違う」という反応が出たら、それ自体が自社業務の特徴を言語化するきっかけになるため、否定せず「どこが違いますか?」と問い返す。

    つまずきと対処

    「うちの業務には当てはまらない」という反応

    最も多いのが「特殊な業務なのでAIには無理」という反応。これが出たときは業務の処理レベルまで分解できていないサインと見てよい。「その作業をするとき、毎回何を見ながら判断していますか?」と問い直すと、参照している情報源が出てくることが多く、そこに文書化・検索支援の候補が見えてくる。

    部門長が「うちは関係ない」と距離を置く

    ワークショップへの参加者選定前に部門長と個別に話す機会を作り、「業務の棚卸しをしたい」という枠組みで打診する方が、「AIを導入したい」という枠組みより警戒を受けにくい。私たちが見てきた範囲では、この順序を守るだけでワークショップへの参加率が変わることがある。

    候補タスクが多すぎて優先順位が決まらない

    「影響範囲」と「実装容易さ」の2軸マッピング後、それでも絞れない場合は「既存のツール(ChatGPTやCopilot等)だけで来週試せるか」という基準を加える。外部APIや開発が必要なものは別トラックに分け、まず試せるものから動かす。最初の成功体験が社内の信頼を作り、次の発掘フェーズの参加者が増える。

    ヒアリング相手がAIを前提に「大きな話」を始める

    「全社のデータを統合して〜」「業務フローを全部自動化して〜」という話が出たら、「まず一番小さな単位の作業で考えましょう」と範囲を絞り直す。スコープを限定することは否定ではなく、最初の成果を出すための設計だと伝えると理解を得やすい。

    みっちゃくん。企業のAI導入を現場密着で一気通貫支援しますみっちゃくんを見る

    実務での使いどころ

    この手順が機能しやすいのは、AI推進担当がひとりで抱えている状況より、部門の実務担当者と短時間でも対話できる環境がある場合が多い。逆に、経営層からのトップダウンで「とにかく活用事例を出せ」という圧力だけがある状況では、ワークショップの前に「発掘フェーズには何回かの対話が必要」という合意を上層部と取り付けておく必要がある。

    また、この発掘プロセスで出てきた候補タスクは、そのままPoC(概念実証)の要件定義の起点になる。業務棚卸しシートのインプット・処理・アウトプットの列が、AIへの指示(プロンプト)のスケルトンとして直接使えるため、ヒアリングとワークショップの記録を捨てずに保管しておくことを勧める。

    3ステップを一度実行すると、次の発掘サイクルから担当者が自走できるようになるケースが多い。最初の1回を丁寧に設計することが、全体の費用対効果を左右する。

    「用途が思いつかない」は出発点の問いが間違っているサインだった。業務語彙とAI語彙の間に橋を架けるのが推進担当の最初の仕事で、それは特別な技術知識より、業務の解像度を上げるヒアリングと分解の設計によって成し遂げられる。3ステップの手順書を手元に置き、まず1部門の棚卸しから動かしてみてほしい。

    この記事の分類

    同じ分類の記事をまとめて読めます。

    最新記事

    技術選定とセキュリティ井元

    AIエージェントを外部接続する前に確認したい5つの境界条件と設計の要点

    Google Geminiのサイバーセキュリティ試験で実在企業3社へアクセスした事例をもとに、AIエージェントの外部接続前に確認したいサンドボックス、ネットワーク、権限、監視、停止の5条件を整理します。

    依頼先の選び方と補助金井元

    AI導入支援はツール選びから実装力の競争へ 日本企業が今確認すべき選定基準

    OpenAIとAccentureをめぐる海外の議論から、ChatGPT Enterpriseの人材育成と業務別AIエージェント導入を一体で進める視点を整理します。日本企業がAI導入支援会社を選ぶ基準、研修を現場実装につなげる手順、ROIの見方、内製化まで具体的に解説します。

    最新動向井元

    ChatGPT EnterpriseのGPT終了に備えて企業が今やること

    ChatGPT EnterpriseとEduでは、9月25日から新規GPTの作成が止まり、12月11日に既存GPTの機能停止が予定されています。作成者や利用者、共有設定、連携機能を棚卸しし、移行先と運用責任を決める手順を整理します。

    不動産三浦

    販売図面をAIで作る方法:間取り図の取り込みから広告用PDFまで

    販売図面やマイソクの作成をAIで行う手順を、図面の取り込みから清書、担当者の確認、物件情報の反映、出力まで順番に解説します。外注との費用と時間の比較、手書きやFAXで届いた図面でつまずく理由と対処もまとめました。

    依頼先の選び方と補助金井元

    社内システム構築をどこに頼むか 比較する軸と費用目安の整理

    社内システム構築をどこに依頼するか迷う企業に向けて、開発会社や支援会社を比較する軸、目的別の候補、費用の目安、契約前に確認したい範囲を整理します。生成AIや既存システム連携、運用定着まで見据えた発注判断に役立つ材料を紹介します。

    技術選定とセキュリティ井元

    100万トークンと音声・動画対応Qwen3.8 Omni Flashを企業はどう使うか

    AlibabaのQwenチームが公開したQwen3.8 Omni Flashは、テキスト・画像・音声・動画と最大100万トークンの文脈に対応します。企業が会議録や現場映像で試す際の評価項目と、API・オンプレミス運用の見極め方を整理します。

    技術選定とセキュリティ井元

    Step 5 Previewの性能とコスト 企業のAIエージェント運用に使えるか

    StepFunのStep 5 Previewが発表されました。600B規模のMoEモデルを企業のAIエージェントで使うとき、API利用と重みを使った自社運用をどう比較するか、GPU費用やライセンス確認を含めて整理します。

    AI導入の進め方井元

    単発回答から継続実行へAgentforce長期タスクの本番化設計

    Salesforce Agentforceが長期実行やマルチエージェント連携へ広がりました。単発回答で終わらせず、完了条件や途中承認、引き継ぎ、成果KPIまで設計して本番運用へ進める考え方を解説します。

    最新動向井元

    データを移さずAIを組み込むAWSとSalesforceの新連携

    AWSとSalesforceが発表した新連携は、CRMデータを大規模に移さず、Amazon BedrockのモデルやSlack、音声業務にAIを組み込む方向を示します。連携の事実と、権限設計や業務選定で確認すべき点を整理します。

    技術選定とセキュリティ井元

    AIエージェントの分岐判断を軽量モデルへ移す方法Jevが示す推論コスト分担の設計

    TypeSafe AIが発表したJevは、文章生成ではなく分類や操作選択に特化したモデルです。AIエージェントの推論コストを見直すため、公開情報の読み方、人の確認へ戻す基準、複数モデルの分担方法を解説します。

    技術選定とセキュリティ井元

    MCP接続と権限を一元管理WSO2 Agent Managerの実力

    WSO2が一般提供を始めたAgent Managerは、AIエージェント固有IDやMCP接続、権限、ライフサイクルをどう管理するのでしょうか。Kubernetes上のサンドボックスや監査ログを含め、複数部門へ展開する前の確認項目を整理します。

    最新動向井元

    AnthropicがClaudeを統合 長時間タスクと資料作成を一つの画面へ

    AnthropicがClaude Coworkと通常チャットを統合し、長時間のAIエージェント作業や文書・プレゼン資料の作成まで一つの画面に集約しました。企業が確認すべき権限管理、Enterpriseの通知、生成物レビューの進め方を整理します。

    よく読まれている記事

    建設井元

    生成AI利活用計画書の提出が契約要件に。国土交通省が直轄の建設コンサル業務で義務化

    国土交通省は2026年度から、直轄の建設コンサルタント業務の特記仕様書に生成AIの積極的な利活用を明記し、受注者に「生成AI利活用計画書」の提出を求めます。入札の加点ではなく、受注後に負う契約上の要求事項です。建設コンサルタント会社・建設会社が今から整えるべき体制を、公表情報にもとづいて整理します。

    建設井元

    国交省が特記仕様書に生成AI活用を明記。直轄業務は利活用計画書の提出が前提に

    国土交通省は2026年5月以降、直轄の建設コンサルタント業務の特記仕様書に「生成AIの積極的な利活用」を明記し、受注者に「生成AI利活用計画書」の提出を求めます。対象業務と計画書の記載事項を整理し、建設会社が今期から着手できる導入ロードマップと、効果が出やすい適用領域をまとめました。

    調達・購買井元

    調達AIエージェントで何ができるか:見積依頼の自動化と、任せない判断の線引き

    調達AIエージェントに任せられる業務と、人が判断すべき業務を分けて整理しました。見積依頼の自動化から始めた場合の削減見込み、社内システムとの連携、失敗しやすい進め方まで、導入を決める前に確認することをまとめています。

    最新動向井元

    Grok 4.6ついに公開!GPT-5.6 Solと同水準モデルを低価格で提供開始!

    xAIが2026年8月12日に公開したGrok 4.6は、GPT-5.6 Solと同等の知能指数を持ちながら出力トークン単価を5分の1に抑えたモデルです。agentタスクや法律評価で優位性を示す一方、コーディング系では逆転される領域もあります。用途別の使い分け判断を具体的な数値とともに解説します。

    お気軽にご相談ください

    AI導入のご相談はお気軽に

    この記事の内容を、貴社の状況に合わせてご相談ください。