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    「用途が思いつかない」を突破する:AI推進担当が自力でユースケースを発掘する3ステップ手順

    「用途が思いつかない」を突破する:AI推進担当が自力でユースケースを発掘する3ステップ手順
    井元CTO

    「用途が思いつかない」が何を指しているか

    民間調査によると、中小企業が生成AIを導入しない最大の理由として「利用用途・活用シーンが思いつかない」が挙げられており、コストや技術リテラシーよりも上位の障壁として観測されている。同様に情報通信白書(令和7年版)でも、生成AI導入にあたっての懸念事項の筆頭に「効果的な活用方法がわからない」が挙がっており、この認知ギャップが構造的な導入阻害要因であることは政府統計でも確認されている。

    私たちが現場で見てきた範囲では、担当者が「AIに何ができるか」を理解していないというより、自社の業務を「作業単位」で語る習慣がないことが多い。部署名や役割名のレベルでしか業務を把握していない状態では、「この作業のここでAIが介入できる」という接点が見えてこない。これが認知ギャップの正体で、意欲やツールの問題ではない。

    このアプローチでできること

    以下の3ステップを実行すると、AI推進担当が外部コンサルタントに依存せず、社内の業務シーンを自力で発掘し、優先順位付きのユースケースリストを作れる状態になる。

    • ヒアリングで「AIの話」をしなくても候補タスクを引き出せる問い設計を持つ
    • ワークショップ参加者が自分で候補タスクを選別できるフィルタリング基準を定義する
    • 業種別の雛形を参照することで、発散フェーズの想像力の起動コストを下げる
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    前提とセットアップ

    前提とセットアップ

    ワークショップを始める前に以下を揃えておく。ツールより「誰を呼ぶか」と「事前に何を渡すか」が成否を左右する。

    • 参加者の確保:各部門から1〜2名の実務担当者(部門長ではなく、手を動かしている人)。部門長は事前の合意形成のみ担当。
    • 場の設定:90〜120分のオンライン/対面ワークショップ。スプレッドシートを共有編集できる環境(GoogleスプレッドシートやExcel Online)。
    • 事前配布物:業種別ユースケース雛形(後述)と、業務分解ガイドシート(インプット/処理/アウトプットの3列)。
    • ファシリテーター:AI推進担当1名。技術知識より「業務の話を引き出す傾聴」が求められる役割。

    手順

    手順

    ステップ1:ヒアリング設計(AI語彙を使わない問いに変換する)

    ヒアリングで「AIに向いている業務はありますか?」と聞いても、ほぼ何も出てこない。聞き方を業務語彙に変換することで、後工程で使えるインプットが得られる。

    以下の問いセットをそのまま使える。各問いの後ろの括弧はAI推進担当が内部で持つ「何を狙っているか」のメモで、ヒアリング相手には伝えない。

    • 「先週1週間で、同じような作業を何度繰り返しましたか?」(繰り返し発生する定型タスクを探す)
    • 「社内外の人に何かを説明するとき、毎回ゼロから文章を書いていますか?」(ドラフト生成・テンプレ化の候補)
    • 「この作業の正解は、過去の事例や規程を見れば判断できますか?」(参照型タスクかどうかの確認)
    • 「この作業の結果を誰かにチェックしてもらっていますか?その理由は何ですか?」(品質基準が明示可能かどうかの確認)
    • 「時間がかかっているけれど、スキルが必要というより量が多いだけだと感じる作業はありますか?」(ボリューム問題の抽出)

    ヒアリングで「AI」「自動化」という言葉を出さないことがコツで、相手が防衛的にならず、現状の業務フローを率直に語りやすくなる。

    得られた回答はそのままメモし、後工程の業務棚卸しシートに転記する。この段階での分類や評価は不要。

    ステップ2:業務棚卸しワークショップ(フィルタリング基準でAI候補タスクを抽出する)

    ワークショップの目的は「AIで何ができるか」を教えることではなく、参加者が自分の業務の中からAI候補タスクを自力で選別できるようにすること。そのために、判断基準をシートとして先に渡す。

    業務棚卸しシートの列構成(スプレッドシートで配布):

    列名記入内容の例
    作業名週次レポートの作成
    インプット各担当者のKPI数値、前週のメモ
    処理(何をしているか)数値を集めて文章に変換、グラフを貼り付け
    アウトプット経営陣向けPDFレポート
    繰り返し頻度毎週
    判断の均一性(○/△/×)○(フォーマットと判断基準が固定)
    参照できる正解事例(○/×)○(過去3ヶ月分のレポートがある)

    「判断の均一性」と「参照できる正解事例」の両方が○の作業を、AI候補タスクの第一候補として扱う。×が多い作業は創造性や人間関係が絡んでいることが多く、現時点では後回しにする。

    ワークショップの前半30分で各自がシートを埋め、後半で列挙した作業を見ながら判断基準を当てはめていく形式が、現場で機能しやすいことが多い。

    フィルタリングを終えたら、候補タスクを「影響範囲(何人が恩恵を受けるか)」と「実装の容易さ(既存ツールで試せるか)」の2軸でマッピングする。右上(影響大・実装容易)から着手順を決める。

    ステップ3:業種別ユースケース雛形を使って想像力の起動コストを下げる

    ユースケース整理の実践的な知見として、文書作成・要約・データ分析・顧客対応といった業務領域を先に分類してからAI適用を検討するアプローチが有効とされている。ワークショップの前にこの雛形を渡しておくと、参加者が「自分の業務に近い例」を見てから棚卸しシートを埋めるため、発散の質が上がる。

    以下は業種別の雛形例。そのまま配布資料として使える。

    業種ユースケース雛形例AIが担う処理
    製造業仕様書・技術文書の要約と版間差分の検出テキスト要約・差分抽出
    製造業設備トラブルの問い合わせ対応初稿生成参照ドキュメントを基にした回答文生成
    小売業クレーム・問い合わせ文の定型分類とタグ付けテキスト分類
    小売業商品説明文の複数バリエーション生成ドラフト生成
    士業(税理士・社労士等)顧客からの質問に対する回答文の初稿生成参照法令を基にした文案生成
    士業(税理士・社労士等)規程・契約書の変更点チェックリスト作成差分検出・整理
    建設・不動産現場日報・施工報告書の構造化と転記非構造化テキストの整形
    医療・介護記録文書のテンプレート入力支援定型文補完・整形

    雛形はあくまで想像力の起点として使う。「うちは違う」という反応が出たら、それ自体が自社業務の特徴を言語化するきっかけになるため、否定せず「どこが違いますか?」と問い返す。

    つまずきと対処

    「うちの業務には当てはまらない」という反応

    最も多いのが「特殊な業務なのでAIには無理」という反応。これが出たときは業務の処理レベルまで分解できていないサインと見てよい。「その作業をするとき、毎回何を見ながら判断していますか?」と問い直すと、参照している情報源が出てくることが多く、そこに文書化・検索支援の候補が見えてくる。

    部門長が「うちは関係ない」と距離を置く

    ワークショップへの参加者選定前に部門長と個別に話す機会を作り、「業務の棚卸しをしたい」という枠組みで打診する方が、「AIを導入したい」という枠組みより警戒を受けにくい。私たちが見てきた範囲では、この順序を守るだけでワークショップへの参加率が変わることがある。

    候補タスクが多すぎて優先順位が決まらない

    「影響範囲」と「実装容易さ」の2軸マッピング後、それでも絞れない場合は「既存のツール(ChatGPTやCopilot等)だけで来週試せるか」という基準を加える。外部APIや開発が必要なものは別トラックに分け、まず試せるものから動かす。最初の成功体験が社内の信頼を作り、次の発掘フェーズの参加者が増える。

    ヒアリング相手がAIを前提に「大きな話」を始める

    「全社のデータを統合して〜」「業務フローを全部自動化して〜」という話が出たら、「まず一番小さな単位の作業で考えましょう」と範囲を絞り直す。スコープを限定することは否定ではなく、最初の成果を出すための設計だと伝えると理解を得やすい。

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    実務での使いどころ

    この手順が機能しやすいのは、AI推進担当がひとりで抱えている状況より、部門の実務担当者と短時間でも対話できる環境がある場合が多い。逆に、経営層からのトップダウンで「とにかく活用事例を出せ」という圧力だけがある状況では、ワークショップの前に「発掘フェーズには何回かの対話が必要」という合意を上層部と取り付けておく必要がある。

    また、この発掘プロセスで出てきた候補タスクは、そのままPoC(概念実証)の要件定義の起点になる。業務棚卸しシートのインプット・処理・アウトプットの列が、AIへの指示(プロンプト)のスケルトンとして直接使えるため、ヒアリングとワークショップの記録を捨てずに保管しておくことを勧める。

    3ステップを一度実行すると、次の発掘サイクルから担当者が自走できるようになるケースが多い。最初の1回を丁寧に設計することが、全体の費用対効果を左右する。

    「用途が思いつかない」は出発点の問いが間違っているサインだった。業務語彙とAI語彙の間に橋を架けるのが推進担当の最初の仕事で、それは特別な技術知識より、業務の解像度を上げるヒアリングと分解の設計によって成し遂げられる。3ステップの手順書を手元に置き、まず1部門の棚卸しから動かしてみてほしい。

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