運送業の配車をAIで組む手順|2030年に34%不足する輸送力への備え

要約
運送業の配車業務にAIを入れる手順を、対象の選び方から撤退基準の決め方まで整理します。国土交通省の試算では2030年度の営業用トラックの輸送能力は約34.1%不足します。配車表の作成時間の数え方、AIに任せる範囲と人が残す範囲の分け方、2週間で見極める進め方をまとめました。
「配車表を作り終えるのが毎日夕方になる」という相談をよく受けます。
受注、車両、ドライバーの勤務条件、納品先の時間帯。制約が多いほど、組み合わせを人の頭で探す時間が延びます。
本記事では、運送業の配車業務にAIを入れる手順を、対象の選び方から撤退基準の決め方まで整理します。公的統計と、公開されている導入事例にもとづく内容です。
この記事の対象読者
- 配車担当者が1名から3名で、その人の残業が慢性化している運送会社の経営者・管理者
- 2024年問題への対応を求められているが、何から手をつけるか決まっていない方
- AI配車の話は聞くが、自社の規模で意味があるのか判断できない方
輸送能力は2030年度に約34.1%不足する見込み
国土交通省の資料では、対策を講じない場合、営業用トラックの輸送能力は2024年度に約14.2%、2030年度に約34.1%不足すると試算されています。
ドライバーの不足人数は、2020年度の約4万人から、2030年度には21万人を超えると推計されています。
採用でこの差を埋めるのは現実的ではありません。厚生労働省の職業安定業務統計では、自動車運転従事者の有効求人倍率は2026年4月時点で2.40倍でした。全職業平均が1倍台前半であることを考えると、求人を出しても応募が来ない水準です。
残る手は、限られた輸送能力を使い切ることです。配車がその中心にあります。

AI配車は配車担当者を置き換える仕組みではない
AI配車が減らすのは、配車表をゼロから組む作業です。実務では、AIが制約を満たす配車案を複数出し、担当者が現場の事情を加味して確定する形が中心になります。
この違いは重要です。「AIが配車をやってくれる」と説明されると、現場は仕事を取られると受け取ります。実際に変わるのは、時間の使い先です。
| 作業 | これまで | AIを入れたあと |
|---|---|---|
| 初期案の作成 | 担当者が組む | AIが複数案を出す |
| 制約の確認 | 担当者が目視で確認 | AIが自動で除外 |
| 例外対応 | 時間が足りず後回し | ここに時間を使う |
| 最終判断 | 担当者 | 担当者(変わらない) |
最終判断が人に残る点は変わりません。だからこそ、担当者の勘や取引先との関係を捨てずに済みます。
公開されている削減の実績
江崎グリコの事例では、AI自動配車の導入により車両台数28%削減、労働時間18%削減、年間積載率19%向上が報告されています。
ヤマト運輸は、2017年時点で全国約4,000拠点にAIを活用した配送ルートシステムを展開していたと紹介されています。
配車システムの提供会社が公表している検証値では、配車作成時間が1日あたり2.5時間短縮、走行距離が12%削減という数字も出ています。ただしこれは提供側の検証データであり、公的機関の調査ではありません。
始める前に数える2つの数字
効果の見込みも、補助金の申請書も、この2つの数字がないと書けません。担当者に聞き取るだけで構いません。
1. 配車表の作成にかかる1日あたりの時間
何時に着手して何時に確定するかを、1週間分だけ記録します。曜日で差が出るため、1日だけでは足りません。
2. そのうち例外対応に使っている時間
急な追加、車両の故障、ドライバーの欠勤。これらへの対応時間を分けて数えます。AIが減らすのは前者の作業時間であり、例外対応の時間はほとんど変わらないためです。
2つを分けて数えると、AIで減る部分がどのくらいかが先に分かります。作成2時間のうち1時間半が例外対応なら、AIを入れても効果は小さいという判断ができます。

2週間で見極める進め方
検証は2週間で区切ります。長く続けるほど判断が鈍り、やめる決断ができなくなります。
| 期間 | やること | 確認すること |
|---|---|---|
| 1日目から3日目 | 過去1か月分の配車実績を渡す | データが揃うか。揃わない項目は何か |
| 4日目から7日目 | AIが出した案と実際の配車を並べる | 制約を満たしているか。使えない案が何割か |
| 8日目から12日目 | 担当者がAI案を起点に配車する | 作成時間が減ったか。手戻りが増えていないか |
| 13日目から14日目 | 続けるかやめるかを決める | 先に決めた基準に照らす |
続ける条件とやめる条件を先に書く
検証を始める前に、この2行を紙に書いてください。あとから決めると、投じた時間が惜しくなって判断が甘くなります。
- 続ける条件の例:配車表の作成時間が2週間の平均で3割以上減り、手戻りが増えていない
- やめる条件の例:AIが出した案の半分以上が制約を満たさない、または担当者の確認時間が作成時間の削減分を上回る
「精度が出たら本番」という曖昧な基準では、いつまでも判断できません。数字で書いてください。
よくある失敗
データが揃う前に始める
配車実績が紙やホワイトボードにしか残っていない会社では、まずそこからです。AIに渡すデータがなければ、案は出てきません。
この場合、最初の2週間はデータを電子化する作業になります。それ自体が無駄ではありません。配車の属人化を解く作業でもあります。
担当者に相談せずに導入を決める
配車担当者は、取引先ごとの事情や、特定のドライバーが得意なルートを頭に入れています。この情報が制約として渡されなければ、AIは使えない案を出し続けます。
全車両を一度に対象にする
検証は1つの営業所か、1つの配送エリアに絞ります。範囲が広いほど例外が増え、効果が見えなくなります。
よくある質問
車両10台程度の規模でも意味がありますか
配車表の作成に毎日1時間以上かかっているなら、検討する価値があります。台数ではなく、組み合わせを探す時間で判断してください。
逆に、毎日同じルートを回る定期便が中心なら、効果は小さくなります。この場合はAIより、配車表の型を作るほうが早く済みます。
既存の配車システムを入れ替える必要がありますか
必ずしも必要ありません。既存システムから配車実績を取り出せるかどうかが分かれ目です。取り出せるなら、AIはその上に載せられます。
見積もりを取る前に、現在のシステムが表形式のファイルでデータを出せるかを確認してください。
補助金は使えますか
国の「デジタル化・AI導入補助金2026」は、旧IT導入補助金の後継として全国の中小企業・小規模事業者が対象です。市町村ごとの制度もあります。
制度によって、導入費を見るものと開発費を見るものが分かれます。既製のシステムを入れたいのに開発の制度へ申請すると対象外になるため、公募要領で対象経費を確認してください。
ドライバーの反発が心配です
AIが決めた配車を通知するだけの運用にすると、反発が起きやすくなります。最終判断が担当者にあること、そして例外はこれまで通り相談できることを、導入前に伝えてください。
効果が出るまでどのくらいかかりますか
配車実績のデータが揃っていれば、作成時間の変化は2週間で見えます。積載率や走行距離の改善は、季節変動があるため3か月は見る必要があります。

まとめ|今日できること
AI配車で減らせるのは、配車表をゼロから組む作業です。例外対応の時間は減りません。この線引きを先に理解しておくと、検証の設計を間違えません。
今日できることは1つです。配車担当者に「配車表を作り終えるまで何時間かかりますか。そのうち急な変更への対応は何時間ですか」と聞いてください。
この2つの数字が、見積もり依頼にも、補助金の申請書にも、続けるかやめるかの判断にもそのまま使えます。

参考・出典
本記事は2026年8月24日時点で公的機関および各社が公開している情報をもとに作成しています。統計値、補助金の要件、各社のサービス内容は変更される可能性があるため、契約や申請の前に必ず各機関へ最新情報をご確認ください。本記事に挙げた削減率は他社の公表値であり、同等の効果を保証するものではありません。
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