AI導入はどの業務から?候補が多すぎる会社のための2軸の決め方【判断シート付き】

「社内の『AI使え』圧がヤバイ」。X(旧Twitter)に投稿された、ある会社員の言葉です。
決められないのは能力の問題ではなく、号令だけがあって業務どうしを比べる軸がないからです。この記事では、公開調査のデータと無料の判断シートをもとに、2軸で最初の1業務を決める手順を説明します。
この記事の対象読者
- 経営層から「AIを使え」と言われたが、業務の選び方が分からない
- 候補の業務が多すぎて、どれから始めるか絞り込めない
- 選んだ理由を社内に説明できず、前に進めずにいる
- AI導入の前段階で、何から着手するかを迷っている
「どの業務にAIを使うか」で、多くの会社が止まっている
業務を選べずに止まっている会社は、数字で見ると珍しくありません。3つの公開調査が、同じ壁を指しています。
- 帝国データバンク(2026年3月、1万312社対象):「生成AIを活用すべき業務の範囲」への懸念が40.0%で、全項目中3位
- 東京商工リサーチ(2025年、6,645社):「活用する利点、欠点を評価できない」が43.8%
- 総務省「令和7年版 情報通信白書」:日本企業の懸念1位は「効果的な活用方法がわからない」(30.1%)
多くの会社が、業務を評価する基準を持たないまま号令だけを受け取っています。裏を返せば、基準さえ持てばこの壁は越えられます。
すでにツールを配ったのに使われていない場合は、原因が業務選定より体制にあることが多いです。その場合は「AI導入が止まる本当の理由」(記事末尾の関連記事)をお読みください。
着手する業務は「効果の大きさ×着手しやすさ」の2軸で決める
候補の業務を「効果の大きさ」と「着手しやすさ」の2軸で採点し、両方が高い業務から始めます。決め方はこれだけです。
| 着手しやすい | 着手しにくい | |
|---|---|---|
| 効果が大きい | 最優先で着手 | 次点。条件が整ってから |
| 効果が小さい | 後回し | 見送り |

実際の導入も、着手しやすい業務から進んでいます。中小企業基盤整備機構の調査(2026年3月)では、AIを導入済みの中小企業で最も多い活用分野は総務・管理部門(68.3%)でした。営業・販売・サービス部門60.3%、経営・企画部門58.5%と続き、製造・生産部門は34.9%にとどまります。
定型的な事務ほど先に進み、現場の判断が絡む業務ほど後になっているのが実態です。帝国データバンクの同じ調査でも、活用場面の1位は「文章の作成・要約・校正」で45.1%でした。
効果が大きくても、着手しにくい業務から始めると途中で止まります。2軸で見る理由はここにあります。

1〜5点をどう付けるか。効果と着手しやすさの5段階基準
採点する前に、候補を書き出す
採点の前に、候補の書き出しから始めましょう。部署ごとに「毎週発生していて、時間を取られている業務」を3つずつ挙げるだけで揃います。よくある候補は次の通りです。
- 議事録の作成
- メール・文書の下書き
- 日報・週報のまとめ
- 請求書・見積書の転記
- 問い合わせの一次回答
自社と重なるものがあれば、そのまま採点に進んでください。候補の深掘りは「用途が思いつかないを突破する」(関連記事)にまとめています。
効果と着手しやすさに、1〜5点を付ける
2軸で決めると言っても、点の付け方に迷うはずです。私たちが無料配布している判断シートでは、次の基準で各業務に1〜5点を付けます。
| 点数 | 効果の大きさの目安 |
|---|---|
| 1点 | 効果がない。減らせる時間やコストがほとんどない |
| 2点 | 効果は小さい。担当者1人の手間が少し減る程度 |
| 3点 | 効果は中程度。担当者の負担が目に見えて軽くなる |
| 4点 | 効果が高い。複数人の時間や外注費が大きく減る |
| 5点 | 効果が非常に高い。部門全体の生産性や売上に影響する |
| 点数 | 着手しやすさの目安 |
|---|---|
| 1点 | AIに任せられない。判断が複雑で、間違いの影響も大きい |
| 2点 | 情報集めなど、下準備の一部だけ任せられる |
| 3点 | 下書きまで任せて、人が仕上げる形にできる |
| 4点 | 人の確認を挟めば、ほぼ任せられる |
| 5点 | 完全移行できる。手順が定型で、間違ってもすぐ直せる |
順位は「効果×着手しやすさ」の掛け算で付けます。掛け算にする理由は、どちらかが1点の業務を自動で下位へ落とせるからです。同点なら着手しやすさが高い方を上にします。効果は後から積み増せますが、着手できなければ始まらないからです。
この基準なら、AIに詳しくなくても点を付けられます。必要なのは自社の業務を知っていることだけです。例えば営業部門で採点すると、こう並びます。
| 業務 | 効果 | 着手しやすさ | 優先度(掛け算) |
|---|---|---|---|
| 議事録作成 | 3 | 5 | 15 |
| 提案書の下書き | 4 | 3 | 12 |
| 受注予測 | 5 | 1 | 5 |
効果が最大の受注予測ではなく、議事録作成が最初の1業務になります。この「意外だが納得できる並び」こそ、2軸で採点する価値です。
候補が並んだら、1業務に絞る
点数で並べたら、最上位の1業務だけに絞って始めることをおすすめします。理由は3つあります。
- 検証の範囲が明確になり、効果を確かめやすい
- 「点数が最上位だったから」と、選んだ根拠を社内に説明できる
- うまくいかなくても、影響とやり直しの負担が小さい
「推進担当の自分だけが、空回りしている気がする」。AI推進を任された方がnoteに書いていた言葉です。複数の業務へ同時に手を広げると、説明も検証も追いつかず、この状態に陥りやすくなります。
逆に、避けたい選び方は2つあります。
- 効果は大きくても、任せる範囲を線引きできない業務を選ぶこと
- 繁忙期の基幹業務から、いきなり始めること
「マジで心理的コストがかかる割に目的に寄与しないものに関しては早急に手放した方がよかった」。noteにあった、導入後の後悔の声です。効果が1〜2点の業務は、着手しやすくても選ばないでください。
着手しやすさが高い業務は、毎週発生する・手順が決まっている・短期間で検証できる、という条件をおのずと満たします。選んだ後の体制づくりは「AI導入が止まる本当の理由」(関連記事)で扱っています。
任せる前に決めておく4つのこと(担当者ならリーダーに確認する4つ)
業務を1つ選んでも、すぐにツールを触り始めないでください。任せる前に、次の4つを決めておくと途中で止まりにくくなります。
- 1. 線引き:どこまでAIに任せ、どこから人が判断するかを決める
- 2. 成果の言語化:何がどれだけ変われば成功かを、数字か状態で先に決める
- 3. 見極めの仕組み:AIの出力を誰が、どう確認するかを決める
- 4. 責任と透明性:間違いが起きたときの責任者と、AI利用を関係者に伝えるかを決める
決めていないと、どうなるか。「業務でAIを使い始めたら、個人情報の扱いが心配だと上司に止められた」。Yahoo!知恵袋に上がっていた相談の要旨です。線引きがなければ、業務を決めた後でも現場はこうして止まります。
4つはどれも、AIの知識ではなく経営判断です。あなたが推進担当なら、この4つは「決めてください」とリーダーに持ち込む確認リストとして使えます。判断シートの採点結果と一緒に見せれば、承認までの往復が1回で済みます。

業務の選び方について、よくある質問
議事録やメールの下書き以外に、自社ならではの候補はどう見つけますか?
部署ごとに「毎週発生していて、時間を取られている業務」を書き出せば十分に集まります(本文の候補例を参照)。書き出した業務は判断シートに転記すれば、そのまま採点と順位付けまで進めます。
最初は1業務に絞るべきですか。複数並行ではだめですか?
1業務からで十分です。検証・説明・責任の範囲が明確になり、成果が出たときに横展開の説得材料になります。
AIに詳しい社員がいなくても、業務選定はできますか?
できます。2軸の採点に必要なのは、AIの知識より業務の知識です。5段階基準に沿えば、業務をよく知る人ほど正確に点を付けられます。
効果はどう測り、いつ見切りをつければいいですか?
「成果の言語化」で先に決めた指標を、1〜2ヶ月で確認してください。届かなければ2位の業務に移ります。撤退は失敗ではなく、選び直しです。
個人情報を扱う業務にも使っていいのでしょうか?
線引き次第です。個人情報を入力しない下書き作成までに限定する、人の確認付きで運用するなど、任せる範囲を段階的に決めれば対象にできます。判断に迷う業務は、最初の1業務には選ばないでください。
選んだ業務で成果が出なかったら、選び直せますか?
選び直せます。2軸で採点してあれば、2位の候補に移るだけです。採点の記録を残しておくことが、選び直しの負担を下げます。

まとめ:2軸で採点すれば、着手する業務は自分で決められる
号令だけで基準がない状態でも、2軸と5段階基準があれば、着手する業務は自分で決められます。決めた根拠は点数として残るので、社内への説明にもそのまま使えます。
動き出しの2週間でやることは、次の3つです。
- 今日:各部署で「毎週発生していて時間を取られている業務」を書き出す
- 今週:判断シートで各業務に1〜5点を付け、最上位の1業務を決める
- 来週:任せる前の4判断を決めて、小さく試し始める
基準は外から降ってきません。まず判断シートを開いて、1業務だけ点を付けてみてください。
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本記事で引用した一次ソース
どの業務から始めるかは、AIの知識がなくても2軸の採点で決められます。この記事の基準と判断シートが、貴社の最初の1業務を決めるたたき台になれば幸いです。
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