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    活用・推進度87%の次へ。PwCの循環モデルで「滞留フェーズ」を特定する

    活用・推進度87%の次へ。PwCの循環モデルで「滞留フェーズ」を特定する
    井元CTO

    この記事の対象読者

    • 生成AIのPoC実績はあるが、本番移行や業務変革への接続で壁を感じているCTO・IT責任者
    • AI投資のROIを社内で説明できず、次の予算申請に迷っている情報システム部門のリーダー
    • PwCの循環モデルを自社の現状診断に使いたいが、具体的な適用方法が分からない企画・推進担当者
    • Responsible AIやエージェント型AIのガバナンス設計を実務に落とし込む段階にある方

    「87%」の次に問われること

    この記事が扱う範囲

    PwC Japanグループが2026年6月に公表した「生成AIに関する実態調査2026春(6カ国比較)」で、日本企業の生成AI活用・推進度は87%に達しました。

    87%は「活用中」または「推進中」の企業の割合です。「AIで業務変革を達成した」企業の割合ではありません。

    この数字そのものの読み解きは、別記事「生成AI活用87%時代、日本企業の競争軸は『効果を出せるか』に移った」で扱いました。本記事はその次の問い、「自社はどのフェーズで止まっているのか」を見分ける枠組みに絞ります。

    止まっている場所を決めずに予算が動く

    止まっている場所を特定しないまま次の予算を組むと、同じ場所でまた止まります。

    PoCを増やしても本番が増えないとき、原因はツールの選定ではないことが多いです。どのフェーズに手を入れるかが決まっていないだけ、というケースが少なくありません。

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    PwC循環モデルの構造と各フェーズの意味

    3フェーズの循環という考え方

    3フェーズの循環。AI準備と可視化、効果測定の基準、変革実行と便益

    PwC Japanグループは同調査で、生成AIの効果を継続的な変革につなげるために「AI Readiness」「Evaluation」「Activation」の3つを循環させることを挙げています。

    3つは一方向に並ぶ手順ではありません。Activationの結果がReadinessの見直しに戻る、閉じた輪として回します。

    私たちは、この3つを次のように整理して自社診断に使っています。

    • AI Readiness:業務プロセスを可視化し、AIが扱えるデータとガバナンスを整えた状態。文書を作るだけでなく、実際の業務プロセスにガバナンスを組み込むところまでを含みます。
    • Evaluation:AIがどの業務でどれだけの効果を生んだかを測る基準と仕組みの設計。KPIの設定から測定サイクル、結果を意思決定につなぐところまでを含みます。
    • Activation:測った結果をもとに業務変革を実行し、生まれた便益を従業員と顧客に返して組織能力として定着させる段階。

    フェーズごとに、つまずく論点は違う

    私たちが支援の現場で見てきた範囲では、どのフェーズで止まっているかによって、つまずく論点がはっきり分かれます。

    フェーズ中心的な問い実務でつまずきやすい論点
    AI ReadinessAIを正しく動かせる基盤が整っているかResponsible AIが文書どまりで、運用に入っていない
    Evaluation効果を測る基準と仕組みがあるかエージェント型AIに合う評価基準がない
    Activation変革を業務に定着させられるか業務を横断してAI活用をつなぐ体制がない

    循環モデルのポイントは、3フェーズが独立して成立しないことです。Readinessが不十分なままEvaluationを走らせても、測定結果の信頼性が担保できません。

    Evaluationの基準がなければ、Activationで何を改善すべきかが判断できません。

    設計上の落とし穴:なぜEvaluationで企業は止まるのか

    最大の壁は基準設計の欠如

    BinxAIが現場で見てきた範囲では、Activationへの移行を阻む最大の壁はEvaluationフェーズの基準設計の欠如です。

    「測れないものは改善できない」という原則は、AI投資のROI議論を左右します。

    具体的には、次の3つの落とし穴を繰り返し見てきました。

    • KPIをPoC後に決める:PoCの設計段階で効果測定の基準を定義していないため、結果が出ても「良かった」か「悪かった」かの判断軸がない。稟議を通すためのデモ用KPIが後付けで設定され、実務改善との接続が切れる。
    • エージェント型AIに単一ツールの評価基準を当てる:エージェント型AIは複数のシステム・プロセスをまたぐ意思決定補助を担うため、「このツールで作業時間が何分短縮されたか」という単一タスクの評価軸では捉えきれない。業務横断での効果を測る設計が別途必要になる。
    • Responsible AIをポリシー文書で完結させる:倫理的指針や利用規約の策定で「Responsible AI対応済み」と見なし、実際の業務プロセスへの運用実装が未完のままReadinessフェーズを通過させてしまう。後工程のEvaluationで測定上の問題が噴出する。

    実装・運用の指針:滞留フェーズを特定してから投資する

    自社の滞留フェーズを診断する5ステップ

    滞留診断の5ステップ。PoCの棚卸し、Readiness診断、評価基準の設計、横断人材の選定、回転サイクル設定

    循環モデルを自社診断に使うには、まず「自社はどのフェーズで止まっているか」を問うことから始まります。次の手順が実務的な出発点になります。

    • ステップ1:既存PoCの棚卸し。本番稼働しているAIと、PoCで止まっているAIを列挙する。止まっている場合は「なぜ止まったか」を3つのフェーズのどれかに分類する。
    • ステップ2:Readiness診断。ガバナンス文書が「策定済み」か「業務プロセスに実装済み」かを区別して確認する。Responsible AIが運用実装されていなければ、Evaluationの測定結果は信頼できない前提で設計し直す。
    • ステップ3:Evaluation基準の設計(またはリデザイン)。KPIをPoC開始前に決める。エージェント型AIには「判断委譲の境界と精度」「業務横断での処理完遂率」など、業務プロセス視点の指標を加える。
    • ステップ4:業務を横断してAIをつなぐ人を決める。複数の部門にまたがってAI活用を組み立てる役割を、誰が担うかを明示する。担い手が社内にいない場合、Activationフェーズは実行力を欠いたまま計画だけが進む。
    • ステップ5:循環の「回転サイクル」を定める。ReadinessからActivationまでを何ヶ月サイクルで回すかを明示する。サイクルが定義されていないと、Activationの結果がReadinessの改善に戻らず、循環が止まる。

    人材がいないときの現実的な始め方

    業務を横断してAIをつなげる人材の確保と育成は、多くの中堅企業ですぐには解決できません。

    短期的には「この業務でこのAIをつなぐ」という横断プロジェクトを一人が担う形で始めましょう。その経験を組織に残す設計まで含めるのが現実的です。

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    よくある質問

    87%という活用・推進度は、海外と比べて高いのですか?

    同調査は日本を含む6カ国の比較で、活用・推進度について日本が他国と大きく開いているわけではありません。重要なのは絶対値よりも「活用・推進度の高さがそのまま変革の進捗を意味しない」という構造です。87%は次の議論の出発点であり、到達点ではありません。

    Responsible AIは具体的に何を「運用実装」すればよいのですか?

    ポリシー文書の策定から一歩進めましょう。実際の業務フローのどの判断ポイントでAIを使うか・使わないかのルールを明示することが出発点です。

    例えば、「外部顧客向けの文章はAI生成後に必ず担当者がレビューする」というルールをプロセスに組み込みます。そのレビュー結果をEvaluationのデータに使う設計が、具体的な運用実装の一例でしょう。

    エージェント型AIの評価基準はどこから設計し始めればよいですか?

    最初に「このエージェントが自律的に判断してよい範囲」と「人間の確認が必要な範囲」の境界を文書化します。その上で、境界内の判断精度と、業務プロセス全体の完遂率をKPIとして設定するのが実務的な入り口です。単一タスクの精度だけを見ていると、プロセス横断の失敗を見落とすリスクがあります。

    業務を横断してAIをつなげる人材がいない場合、どこから始めればよいですか?

    特定の業務部門でAIの活用経験が蓄積されている人を起点にしましょう。隣接する業務プロセスへの横展開を担う役割として設定するアプローチが現実的です。

    最初からすべての業務をカバーする必要はありません。1〜2の業務プロセス横断プロジェクトを通じて経験を積み、その知見を組織に残す設計が重要でしょう。

    循環モデルを「回す速度」はどう決めればよいですか?

    業務サイクルと合わせるのが基本です。四半期ごとにEvaluationの結果を確認しましょう。ReadinessとActivationの計画を見直すサイクルから始めると管理しやすいです。

    エージェント型AIを使う場合は、AIの挙動変化(モデルアップデートを含む)にも注意が必要です。挙動の変化に応じた随時の基準見直しも別途組み込みましょう。

    活用・推進度87%という数字は、日本企業がAIを「知らないまま競合に遅れた」時代の終わりを示しています。次に問われるのは、ReadinessからActivationまでの循環をどれだけ速く、精度高く回せるかです。

    まず今日、既存のPoCを一覧に書き出してみてください。止まっているものが3フェーズのどこで滞留しているかを分類することが、次の投資判断の起点になります。

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