26件に1件が高リスク。シャドーAI可視化と3層セキュリティ設計の再点検

「うちは大企業ではないから大丈夫」という感覚が、中堅企業のセキュリティ担当者の間でまだ根強く残っています。しかし今回報告された数字は規模に関係なく、生成AIを使い続けている組織のほぼ全体に当てはまるものです。
セキュリティ企業のCheck Pointが公表した分析を、ITmediaエンタープライズが2026年7月に報じています。これは現場担当者が経営層に対してリスクを説明する際の具体的な根拠になるでしょう。
本稿ではその事実を整理したうえで、実務に直結する3段階の対策手順を後半に示します。起点に置くのは「見えていない通信をどう見えるようにするか」です。技術・運用・ガバナンスという役割分担の全体像は生成AI情報漏洩リスクを三層で防ぐ:中堅企業が今すぐ整えるべき技術・運用・ガバナンス対策で整理しているので、あわせてお読みください。
この記事の対象読者
- 社員が業務で生成AIを利用しているが、利用実態を把握できていない情報システム・セキュリティ担当者
- DLP(情報漏洩対策の仕組み)やAIゲートウェイの導入を検討しているが、稟議の根拠が弱いと感じているIT管理者
- 生成AIのセキュリティリスクを経営会議で説明しなければならない担当役員・部門長
何が起きたか
26件に1件が高リスクという調査結果
Check Pointの分析によると、企業ネットワークから送信された生成AIプロンプトのうち26件に1件が、機密情報漏えいリスクの高い内容と判定されました。世界平均のリスク率は3.9%です。
さらに、生成AIを継続利用している組織の85%でこうした高リスクプロンプトが確認されています。特定の一部の企業だけに起きている事象ではなく、生成AIを日常的に使い続けているほぼすべての組織が該当しうる水準です。
報告された主要な数値
| 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 高リスクと判定されたプロンプトの割合(世界平均) | 3.9% | Check Point(ITmediaエンタープライズ2026年7月報道) |
| 高リスクプロンプトが確認された組織の割合 | 85% | Check Point(ITmediaエンタープライズ2026年7月報道) |
この2つの数字は、分母が違う点に注意が必要です。3.9%は送信されたプロンプトのうちの割合、85%は組織のうちの割合です。「危ないのは全体の4%だけ」と読むと実態を見誤ります。
プロンプト単位では26件に1件でも、組織単位で見れば85%が該当する。生成AIの業務利用が広がるにつれ、リスクが比例して膨らんでいる実態が浮かびあがります。

ポイントと背景
高リスクプロンプトが生まれる3つの経路

なぜ高リスクプロンプトがこれほど多く発生するのか。私たちが中堅企業の支援現場で見てきた範囲では、代表的な経路は次の3つです。いずれも同時に起きるもので、順番はありません。
- 機密情報の貼り付け:社外秘の資料や議事録を、そのままプロンプトに貼り付けてしまう。
- 個人情報を含む文書の送信:顧客名簿や申込書を、要約・翻訳のために送ってしまう。
- 著作物のアップロード:他社の文章や自社のソースコードを、解析のために読み込ませてしまう。
これらの行為は社員が「悪意を持って行う」ケースは少なく、利便性を優先した結果として発生しています。問題は意図ではなく、ガードレールのない環境そのものにあります。
学習利用というもう一つの構造的リスク
もう一つの構造的リスクが「学習利用」の問題でしょう。Cyseekの解説によれば、オプトアウトとは「初期状態で有効になっている学習利用を、利用者側の設定で無効にする手続き」です。つまり、何もしなければ入力内容はモデルの改善に使われうるということです。
この論点は社内ルールだけの問題ではありません。同解説は、個人情報保護委員会がAIサービス提供者による入力情報の学習利用について「利用者から提供者に個人データを提供したことになる」と述べていると紹介しています。個人情報保護法上の第三者提供に該当する可能性があるということです。
把握できないシャドーAIの通信
シャドーAIの問題もあります。IT部門が把握していない生成AIサービスを社員が個人的に使い始めているケースは少なくありません。私たちが見てきた範囲でも、中堅企業に多い傾向があります。
把握できていないサービスにはDLPルールも学習オプトアウトも適用できません。
ツール導入だけでは数字は下がらない:可視化・制御・統治の3層を順に整える

「26件に1件が高リスク」という数字は、DLP導入やAIゲートウェイの予算稟議に使える根拠になります。ただし、ツールを導入しただけではこの数字は改善しません。
現場で効果が出ているのは、次の3層を順番に整えたケースです。ツール選定より先に「どの層から着手するか」を決めることが、限られたリソースを持つ中堅企業には現実的なアプローチでしょう。
- 【第1層:可視化】社内ネットワーク上でどのAIサービスにどれだけ通信が発生しているかを、CASB(クラウド利用を可視化・制御する基盤)やプロキシログで把握する
- 【第2層:制御】個人情報・社外秘ラベル・特定ファイル形式といった高リスクなデータが生成AIへ送信される通信を、DLPルールでブロックまたはアラート通知する
- 【第3層:統治】承認済みサービスの学習オプトアウト設定を完了させ、利用ガイドラインと定期的なポリシーレビューの仕組みを整える
第1層の可視化を飛ばしてDLPルールだけ設定しても、シャドーAIの通信には効きません。そのため数字上の改善は期待できません。

よくある質問
シャドーAIとは何ですか?
IT部門が把握・承認していない生成AIサービスを社員が個人的に業務利用している状態を指します。ChatGPTやPerplexityなどの無料サービスを私用アカウントで使うケースが典型例です。
企業のDLPポリシーや利用ガイドラインは、IT部門が認識しているサービスにしか適用できません。シャドーAIが存在する限り、どれだけルールを整えてもカバレッジに穴が開き続けます。
DLPだけでプロンプトの情報漏洩は防げますか?
DLPは有効な手段ですが、単独では不十分です。DLPルールが機能するのは、あらかじめ定義したデータパターン(個人番号・クレジットカード番号など)に対してのみです。
定義されていない形式の機密情報や、社員が口頭情報をテキストとして入力するケースには反応しません。DLPはあくまで3層のうちの第2層であり、可視化と統治と組み合わせて初めて機能します。
学習オプトアウトはどのサービスで可能ですか?
主要な生成AIサービスの多くは、有償プランまたは管理コンソールからオプトアウト設定が可能です。ただし設定場所・手順・対象範囲はサービスごとに異なります。
承認済みサービスの一覧を作成しておくとよいでしょう。各サービスの管理コンソールでオプトアウト状態を定期的に確認する運用を設けることが現実的です。
サービスのアップデートでデフォルト設定が変わる場合もあります。一度設定して終わりにしないことが肝心でしょう。
「26件に1件」という数字は自社でも測定できますか?
自社での測定には、AIゲートウェイやCASBを経由した通信ログの分析が必要になります。現時点でログを取得できていない場合、まず第1層の可視化環境を整えることが先決です。
ログが取得できるようになれば、自社版の「高リスク率」を算出できます。DLPルールに一致した件数を総プロンプト件数で割るという計算方法です。
この数字を定点観測すれば、対策の効果を定量的に経営層へ報告できるようになるでしょう。
AIエージェントが普及すると、リスクはどう変わりますか?
人間がプロンプトを入力する現在のモデルと異なり、AIエージェントは外部コンテンツを自律的に読み込んで行動するのが特徴。
悪意ある指示を外部コンテンツに埋め込み、エージェントに意図しない操作を実行させる手法があります。これは「プロンプトインジェクション」と呼ばれます。人が一件ずつ内容を確認するわけではないぶん、気づくのが遅れやすいのが厄介な点です。
エージェント利用が広がる前に、承認済みサービスと権限設計を明確にしておくことが備えになります。第1層の可視化と第3層の統治は、エージェント時代にもそのまま効く土台です。
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参考・出典
「26件に1件」という数字は、対策が後回しになっている組織にとって稟議を動かす実質的な材料になります。ただし数字が一人歩きしても、可視化・制御・統治の3層が揃わなければリスクは下がりません。
まず今日、社内のプロキシログかCASBの管理画面を開き、どの生成AIサービスに通信が発生しているかを一覧にするところから始めてみてください。
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